城下町金沢と霊峰白山を巡る旅 ~巨樹・神木・名木 編~
日本では古くから、山や岩、滝、大木などに神が宿るという考え方がありました。これは「自然そのものを信仰の対象とする」考え方です。
特に樹齢数百年から数千年の巨樹は、人の力を超えた存在として畏敬の対象となり、多くは神社の御神木になっています。
日本三霊山に数えられる「白山」を仰ぐ白山市と、白山を信仰した加賀藩前田家の文化が残る金沢市にも、樹齢を重ねた名木がいくつも存在し、「土地の歴史を語る存在」として神聖視されています。
それらの名木は、金沢から白山へと続く道筋や山懐に立ち、霊峰白山につながる信仰の対象となっています。
かつて金沢の城下町に暮らした人たちにも大切にされたからこそ、木々は現在まで生き続けて来られたのでしょう。
そんな金沢市と白山市の巨樹・神木・名木をご紹介します。
堂形のシイノキ




金沢市広坂の「しいのき迎賓館」(旧石川県庁舎)正面玄関前にある2本のスダジイを「堂形のシイノキ」といいます。
堂形(どうがた)というのは、この場所のかつての地名です。加賀藩初代・前田利家が、京都の三十三間堂を模した的場をこの地に造らせ「堂形の的場」と呼んだことから、地名となったと言われています。
シイノキの由来については、加賀藩3代・前田利常がこの場所に書院を設けたときの庭木であったという説や、「加賀騒動」で知られる大槻伝蔵の屋敷にあったものを移植した、という説などがあります。
石川県庁が移転し、旧庁舎が平成22年(2010)に改築される際に建物の名前が公募され、その結果「しいのき迎賓館」と命名されたことからも、この2本のシイノキが石川県民に深く愛されていることがわかります。
樹齢:300~400年
建物に向かって右側/樹高:約12m、幹周:約5.2m
神明宮の大ケヤキ




金沢市の犀川大橋から国道157号線を100mほど南西へ(つまり白山市の方へ)行くと「神明宮」があります。加賀藩前田家の崇敬が厚かった「金沢五社」の一つで、市民からは「おしんめさん」の愛称で親しまれています。
「あぶり餅神事」の神社としても有名ですが、もう一つ有名なのが、国道からもこんもりとしたシルエットが見える大ケヤキ。
この大ケヤキは樹齢千年といわれ、ケヤキでは石川県内で最大クラス。
歴史的逸話も多く残っています。金沢の左義長は「神明の大ケヤキ」の下で城内のしめ縄を燃やしたことから始まった、とか、江戸時代に流行した伊勢踊りは金沢城を出発し「神明の大ケヤキ」を目指して練り歩いた、とか。
また、中原中也の詩「サーカス」は、この大ケヤキの下で興行していたサーカスを見た記憶から作られたと言われていますし、文豪・室生犀星も幼少時代に大ケヤキの周りでよく遊んだそうです。
樹高:約33m
幹周:約7.83m
枝幅:約25m
樹齢:推定1000年
鶴来本町通りのモミの木




金沢市から続く通称「鶴来(つるぎ)街道」は、現在は県道として白山市鶴来の街なかを通っていますが、途中歩道をふさぐように立っている木があります。それが、白山市指定文化材になっている「鶴来本町通りのモミ」です。道路拡張の際に伐採されても不思議ではないところを、地域の人々の希望で、道路を少し曲げる形で残されました。
まっすぐ空へ伸びる美しい樹形から、昔から商店街の目印として親しまれており、「まちを見守る木」として大切にされています。
樹高:約25m
幹周:約3.7m
樹齢:約200年
御仏供スギ




白山市の「吉野工芸の里」にあるスギの大木を「御仏供(おぼけ)スギ」といいます。
この地方では、仏壇に供える仏飯を御仏供さん(おぼくさん・おぼけさん)といいますが、その形に似ていることから名が付いたとのこと。
別名を「さかさ杉」ともいうのは、7百年程前にこの地に祇陀寺を開いたお坊さんが杉の小枝を逆さに地面に刺したところ、こんな風に育ったから、と言われています。
国道沿いでこのような巨樹が見られるのが珍しいと、ドライブの途中に立ち寄る人も多くいます。
国指定天然記念物で日本の名木百選にも選ばれています 。
樹高:約24m
幹周:約7m
樹齢:約700年
瀬戸の夜泣きイチョウ




昔、この木の上に住みついた天狗が夜になると大きな声で泣いて、その泣き声が周囲に響き渡った、という伝説があります。そこから「夜泣きイチョウ」と呼ばれるようになりました。
この伝説は、不思議な自然現象を天狗の話に仕立てたものと考えられますが、天狗の泣き声とはいったい何だったのでしょう…。
この木は、手取川上流の標高340mの豪雪地帯、旧尾口村の瀬戸神社境内に立っています。国道沿いにありますので、秋の黄葉時期にはとても目立ちます。
豪雪に耐え巨木に成長した例として学術的にも貴重とされ、石川県の天然記念物に指定されています。
樹高:約35m
幹周:約9.8m
樹齢:約500年
五十谷の大スギ




太い枝を四方に長く伸ばす異様な姿から「魔王杉」の異名があります。
手取川の支流・大日川のそのまた支流・堂川の谷を6Kmほど遡ったところにある五十谷(ごじゅうだに)の集落の南の端、八幡神社境内に立つのが、この大杉です。
危険回避のために整理された大枝も多くあるとのことで、本来ならば、もっとたくさんの腕を伸ばしていたのだというから、もの凄いですね。
この異形の巨木には様々な伝承が残されています。
この地に住みついた狩猟の民がこの木を神木として祀ったという伝承や、弘法大師が挿した枝が根付いたという話や、この木に巣を設けていた鷹を捕らえて前田のお殿様に献上した、という逸話も。
いずれの伝承も、この木が畏敬の対象であったことを物語り、まさに地域の歴史と精神性の象徴として生き続けている木であることがわかります。
石川県指定文化財です。
樹高:約39m
幹周:約8m
樹齢:伝承1200年
白山比咩神社の老スギ



霊峰白山を遥拝する全国3千社の白山神社の総本宮が白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)です。
表参道駐車場から一の鳥居をくぐると、スギやケヤキ、カエデなどの樹木に覆われた緩やかな坂道が250mほど続き、手水舎の前にご神木が立っています。
地元では「しらやまさんの大スギ」と呼ばれ、表参道を行く多くの人はここで立ち止まり手を合わせます。
白山市指定文化財です。
樹高:約42m
幹周:約10m
樹齢:約800年
太田の大トチノキ




霊峰白山に最も近い集落である白峰(しらみね)の山の中に生き続ける「太田の大トチノキ」。日本で最大のトチノキです。
樹齢は1300年といわれ、何本もの支柱が取り付けられていますが、今も葉を茂らせ、花も咲きます。
山奥にあるのでおいそれとお目にかかることはできませんが、それだけに会えた時の感動もひとしおです。
国指定天然記念物で日本の名木百選にも選ばれています。
樹高:約25m
幹回:約13m
樹齢:推定1300年